大判例

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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)11187号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔事実と争点〕被告日本開発鉱業株式会社は昭和三八年四月五日当時の商号東洋トラバーチン大理石工業株式会社名義で訴外東洋建設株式会社宛に金三〇万円の約束手形一通を振出し、原告は右訴外会社から白地式裏書により右手形の譲渡をうけ所持人となつたので、右手形金と満期以後の法定利息の支払を求めた。

被告は、その商号が原告主張の日に現在の商号となつたこと、登記簿上その商号が東洋トラバーチン大理石工業株式会社となつていたことは認めたが、被告が本件手形を振出した事実を否認し、つぎのとおり主張した。

被告会社はもと秋田興産株式会社と称し早見喜一郎がその代表取締役であつたが、昭和三五年五月一三日訴外秋葉寿雄が商号を富国商事株式会社と変更し、石井四郎が代表取締役に選任された旨の変更登記を経由したのを始めとし、その後東京拓殖株式会社、株式会社大日本製紙、東京拓殖株式会社、株式会社三和精機、野村不動産株式会社、東洋トラバーチン大理石工業株式会社と順次変更登記がなされ、これに伴い代表取締役変更の登記がなされ、東洋トラバーチン大理石工業株式会社については大寺正男が代表取締役として登記されるに至つたが、右商号変更、取締役ないし代表取締役の選任はこれにつき株式総会、取締役の開催、決議がなく事実無根のもので登記も無効である。被告会社は登記法上右無効の登記を抹消して秋田興産株式会社を復元する手段として東洋トラバーチン大理石工業株式会社から現在の商号に変更する旨の登記手続を了したにすぎず、東洋トラバーチン大理石工業株式会社は架空の会社であつて被告会社とは無関係である。したがつてかりに東洋トラバーチン大理石工業株式会社名義をもつて原告主張の手形が振出されたとしても、被告会社が振出人となるわけがなく、また右会社の代表取締役名義人たる大寺正男は被告会社の代表者でないから、同人の手形振出により被告会社において手形責任を負担すべき理由もない、

と主張した。(争点一)

原告は仮に不実の登記であるとしても、被告はその不実を知り乍ら、東洋トラバーチン大理石工業株式会社の商号を現在の商号に変更登記したものであり、原告は右登記が不実であること知らなかつたから、被告は商法第一四条により右東洋トラバーチン大理石工業株式会社に関する登記が不実なことをもつて原告に対抗することはできず、本件手形は右により登記された代表取締役大寺正男が同会社を代表して振出したものであるから、被告会社は責任を免かれないと主張した。これにたいして、被告は、商法第一四条は不実の登記をした者とその登記を信頼して取引をした者との間の規定で、その取引後変更登記をした被告会社には無関係であると、抗争した。(争点二)

判決は右二つの争点につき被告の主張を支持し、つぎのとおり説明している。

〔判決理由〕……を総合すれば、被告会社の前身としてもと秋田興産株式会社と称する会社があつたところ、その後被告主張のような順次の商号変更と、これに伴う代表取締役の変更があつたものとして、東洋トラバーチン大理石工業株式会社の商号、その代表取締役として大寺正男が登記されるに至つたが(右登記関係は争いがない)、右商号ないし代表取締役の変更はなんら所要の株主総会、取締役会等の開催、決議のない単なる名義だけのもので、被告会社は登記簿上秋田興産株式会社を復元するに代え昭和三八年一一月一〇日右東洋トラバーチン大理石工業株式会社から現在の商号に変更する登記手続をなしたが、東洋トラバーチン大理石工業株式会社なるものは右の経緯により不実架空の会社であつて被告会社とは無関係のものであり、右会社の代表取締役名義の大寺正男はもとより被告会社につき代表権を有する者ではないことが認められる。してみれば右手形は被告会社が振出したものとは認め得ない筋合であり、右証拠によれば右東洋トラバーチン大理石工業株式会社に関する登記は不実のものであるが、その登記は被告会社と無関係の大寺正男がしたものと推認され、被告会社のしたものでないことは明らかであるから、商法一四条により被告会社がその不実をもつて対抗し得なくなるべき筋合もない。被告会社が右訴外会社の登記に基き商号変更登記をしたことによつて右法条の適用を主張する原告の見解は独自のものであつて採用できない。(北村良一)

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